東京高等裁判所 昭和42年(ネ)2291号 判決
右に認定した事実によれば、英子が妊娠中絶手術を受けるに際し、被控訴人窪田義之、同窪田清、同窪田義弘らは、いずれも英子が手術を受けることに積極的に賛意を表し、むしろ同女にこれを進言し、特に被控訴人窪田義弘は、同女に被控訴人佐々木医師を紹介する労をとつたことが明らかであるけれども、前記認定の事実にさらに本件口頭弁論の全趣旨を加えれば、被控訴人窪田義之、同窪田清、同窪田義弘らは、昭和三八年二月下旬英子が控訴人方を去つて被控訴人窪田義之方に戻つたとき、同女から控訴人との婚姻生活の実情、特に控訴人が同女に対し暴力的行為を振うために同女としては最早控訴人との同居生活に耐え得ないと考えていることを聞かされ、将来婚姻生活を維持すべきか否かの相談を受け、英子の真意並びに当時の英子夫婦の生活が破局に立ち至つている実情を充分に参酌しつつ、父母または兄としての立場から、英子の将来の方針を慎重に考慮した末英子の幸せのためには、それ以上控訴人との婚姻生活を継続させるべきではなく、また長女敦子を養育しつつ単身で自活しなければならないその後の英子母子の生活を思うとき、控訴人の明示の同意の有無にかかわらず、妊娠中の第二子の中絶手術を受けることもこれまたやむを得ないものと判断し、その結果英子において右被控訴人らの意見に従つて中絶手術を受けるにいたつた事情を窺知するに難くなく、右被控訴人らが、英子夫婦の先に認定した当時の生活の実情から、英子の将来について右のような判断を下したことは肉親としてはまこと無理からざるものがあるというべく、右被控訴人らが英子の意思を無視し、またはその自由な意思決定を妨げ、あるいは控訴人に不当に精神的苦痛を与えることを意図してさような判断を下したと認定し得るなんらの資料もない(前掲甲第一号証もその資料となし難い。)から、右被控訴人らが英子をしてとらしめた前記措置はなんら控訴人に対する不法行為を構成するものではない。
(古山 川添万 右田)